国際基督教大学
GEN011 N1: 物理の世界(A)ー 科学的な考え方
2019/3/2
指導教員 岡村秀樹教授
Group 13


寝坊を防ぐアラームの設定方法


1.序論

1.1 実験の目的
大学生における睡眠不足が先行研究によって認められている。 例えば、黒川と石村の調査では、対象とした大学生の平均睡眠時間は5時間55分だった。[1] また、青木の研究では、対象の大学生の平均睡眠時間が6時間16分であった。[2] 上記の数値を日本人の平均睡眠時間である7時間22分と比較すると、1時間から1時間半ほど短いことが分かる。[3] このため、ネットでは、大学生が「朝が弱くてなかなか起きられない」と相談をしているケースが散見される。例:[4] 早稲田大学の保健センターの上妻によれば、「何度も鳴る...アラームでようやく起きる[...人]は少なくない」という。例:[4] このようなことから、本研究は、アラームのかけ方を変えることによって、起きやすさが変わるのかについて調べた。

起きやすいアラームのかけ方を実験した先行研究は少ない。 確認できたのは、二つの研究である。 一つは、CarskadonとHerzによる研究で、人間を嗅覚に対する刺激(例えば、ペパーミントの匂い)によって確実に起こすことは出来ないという。[5] もう一つは、磯中による学士論文で、アラーム音の音色の違いが起床に影響を与えるとする研究である。[6] 彼によれば、聞き慣れている音(C(ド)の単音)や心地よい音(Cメジャーの和音)は認識しにくく、不快な音(Cdimの和音)は起床を促しやすいという。 本研究では、「アラームの音色」の他にも、音量と、携帯のバイブレーションの有無という、三つの変数に着目し、 「普段起きている時刻よりも早く起きなければならない場合のアラームのかけ方」を主題とした。


2.方法

2.1 実験装置・材料
アラームの設定には、基本的に、iPhoneの標準アプリ「時計」を使った。iPhoneのモデルは問わない。

アラーム音は、「音量」の実験では標準の「レーダー」を使い、「バイブレーション」の実験でも標準の「マリンバ」を使った。 しかし、音色の実験では、標準で備わっている「アラーム」と「マリンバ」の音の他にも、標準では備わっていない音色を二つ使った。 一つ目は、smartomaizuのフリー素材である「川のせせらぎ」である。 この音は、このリンクに記載してある手順に法って、着信音としてインポートした。 二つ目は、「せせらぎ」の音である。この音を利用するに当って、Alarm Clock Sleep Sounds Plusというアプリを使用した。

2.2 各実験の方法
まず、音量の実験を行った。iPhoneの音量は16段階である。 そのため、3段目、6段目、9段目、12段目のそれぞれの音量でアラームを設定し、各人計4回の実験を行った。 音量の最大段階(16段目)の実験を行わなかった理由は、寮に住んでいる実験者を考慮した為である。

次に、音色の実験を行った。不快音である「アラーム」、 日本人にとって心地よいとされている「川のせせらぎ」と「せせらぎ」、 そして聞き慣れている「マリンバ」のアラーム音で、各人計4回の実験を行った。

最後に、バイブレーションの実験を行った。 バイブレーション有りで「マリンバ」をアラーム音に設定した実験と、 バイブレーション無しで同じアラーム音を設定し、各人計2回の実験を行った。

2.3 条件
各実験において、実験者は、次のいずれかを結果表に記録した。

  1. ベッドから5分間出た場合、「起床」を意味するaの文字。
  2. アラームが聞こえたが起きられなかった場合、「一時的な覚醒」を意味するbの文字。
  3. 起きられなかった場合、「起きれず」を意味するcの文字。
実験では、個人差を排除するために、いくつかの制御変数を設けた。 まず、「睡眠時間(入眠・起床時間)」を制御した。 音量の実験では、睡眠時間を、全ての実験者の普段の入眠・起床時間よりも早い、10時から7時とした。 音色とバイブレーションの実験では、睡眠時間を更に減らし、入眠・起床時間を12時から5時とした。 次に、「前日の睡眠時間」に影響を受けないように、実験は1日おきに実施することにした。 最後に、「光」を制御するために、カーテンを閉めるようにした。 最も、全ての変数が制御出来たわけでは無い。 例えば、Born et al.は、起きようとする意思の強さが起床に影響を与えると報告した。[7] しかし、「起きようとする意思の強さ」は、実験者の都合によりコントロールすることが困難であった。 また、実験者効果を排除することが出来なかった。

表1. 変数の説明
Dependent Variable(従属変数) 起床の有無。「起床[a]」「一時的な覚醒(二度寝)[b]」「起きれず[c]」の三つに分類。
Independent Variable(独立変数) 「アラームの音量」「アラームの音色」「バイブレーションの有無」
Controlled Varible(制御変数) 「睡眠時間(入眠・起床時間)」「前日の睡眠時間」「光」


3.結果

実験1. 音量の実験
表2.1は、音量の実験の結果表である。
この表を元に、表2.2では、音量の段階毎に、起床率[a÷(a+b+c)]と覚醒率[(a+b)÷(a+b+c)]を計算した。
起床率と覚醒率の計算では、実験者11のデータは用いらなかった。

表2.1 音量の実験の結果表
段階 実験者
実験者1 実験者2 実験者3 実験者4 実験者5 実験者6 実験者7 実験者8 実験者9 実験者10 実験者11
3段目 a c b c a b b b b b a
6段目 a a a a a b a b c a b
9段目 a a a a a b a a a a c
12段目 a b b b a a b a a c 未記入

表2.2 音量の実験の起床率と覚醒率
段階 項目
起床率[a÷(a+b+c)] 覚醒率[(a+b)÷(a+b+c)]
3段目 0.2 0.8
6段目 0.7 0.9
9段目 0.9 1
12段目 0.5 0.9

実験2. 音色の実験
表3は、音色の実験の結果表である。

表3. 音色の実験の結果表
音色 実験者
実験者1 実験者2 実験者3 実験者4 実験者5 実験者6 実験者7 実験者8 実験者9 実験者10 実験者11
アラーム b c a a b a a b a 未記入 b
せせらぎ c b c b a c a b a 未記入 b
川のせせらぎ a a a a 未記入 c a 未記入 未記入 未記入 a
マリンバ c c b a c b c a b 未記入 b

実験3. バイブレーションの実験
表4は、バイブレーションの実験の結果表である。

表4. バイブレーションの実験の結果表
バイブ 実験者
実験者1 実験者2 実験者3 実験者4 実験者5 実験者6 実験者7 実験者8 実験者9 実験者10 実験者11
a a a a a c b b b 未記入 b
a a b a a c b b b 未記入 b


4.考察

実験1. 音量の統計
表2.2を見ると、アラームの音量が大きい方が、小さい方よりも起床率と覚醒率が高いことが分かる。 ここで考えられる仮説は、アラームの音量が大きければ大きい程、起床率と覚醒率が上がるということである。 そのため、この仮説が正しいかどうかを検定した。 音量と「起床率」又は「覚醒率」に相関があるのかを調べる為、ピアソンの相関係数を計算し、無相関検定を行った。

統計処理の結果は以下の通りである(.xlsxをダウンロード)。
最初に、「音量」を独立変数、「起床率」を従属変数とした場合、ピアソンの相関係数(r)は0.5だった。
次に、「音量」を独立変数、「覚醒率」を従属変数とした場合、ピアソンの相関係数(r)は0.6だった。

しかし、それぞれの結果に無相関検定を行った際、p値が有意水準(0.05)よりも大きいことが判明した。 そのため、「母集団において2つの変数の相関は0である」という帰無仮説を否定出来ない。 帰無仮説を棄却することが出来ない大きな理由として、標本数の不足がある。 従属変数が「率」である以上、本来は同じ実験を数回行わなければならなかったが、時間の余裕が無かった。 また、9段目の起床・覚醒率が12段目よりも高い理由を見つける事が出来なかった。

実験2. 音色の統計
磯中によると、聞き慣れている音(C(ド)の単音)や心地よい音(Cメジャーの和音)は認識しにくく、不快な音(Cdimの和音)は起床を促しやすいという。[6] ここで考えられる仮説は、以下の通りである。

  1. 不快音である「アラーム」は、聞き慣れている「マリンバ」の音よりも起床を促しやすいはずである。
  2. 心地よい音である「せせらぎ」と、聞き慣れている「マリンバ」の音の間では、起床の促しやすさに有意な差はないはずである。
そのため、この仮説が正しいかどうかを検定した。 分析のため、「起床」した場合は3点、「一時的な覚醒」をした場合は2点、そして「起きれなかった」場合は1点を付けた。 その後、二つの比較対象における点数の平均に有意な差があるのかを「対応のあるt検定」によって分析した。

統計処理の結果は以下の通りである。
まず、「アラーム」と「マリンバ」の平均をt検定によって分析した結果、P(T≤t)両側は0.025であり、有意水準の5%を下回っている (.png)。 このことから有意水準5%で「アラーム」と「マリンバ」の平均は確かに異なると言える。
次に、「せせらぎ」と「マリンバ」の平均をt検定によって分析した結果、P(T≤t)両側は0.6であり、有意水準の5%を上回っている (.png)。 このことから有意水準5%で「せせらぎ」と「マリンバ」の平均は確かに異なるとは言えない。

後者の実験では、統計後に、「せせらぎ」の音量が他のアラーム音と異なる可能性が指摘された。 そこで、"DecibelX"というアプリで計測したところ、 「アラーム」は76.5dB(.jpg)であり、 「マリンバ」は76.3dB(.jpg)であったのに対して、 「せせらぎ」が50.0db(.jpg)と、低い音量であることが分かった。 そこで、以前に説明した、「川のせせらぎ」という76.3dB(.jpg)のアラームを用いて、追試を行った。 この追試は、「せせらぎ」と「川のせせらぎ」という、音色は似ているが、音量は違う二つのアラーム音で実験し、 音量の違いによって点数の平均が異なるのかを調べる目的で行われた。
分析は、「対応の無いt検定」によって行われた。10人分のデータが集まらなかったからである。 t検定の結果、P(T≤t)両側は0.061で、有意水準の0.05を上回っている(.png)。 このことから有意水準5%で「せせらぎ」と「川のせせらぎ」の平均は確かに異なるとは言えず、 「せせらぎ」の音量が他のアラーム音と異なったことが、他の実験に影響を与えたのかについて、明らかにする事が出来なかった。 しかし、実験の中で平均の差は存在したため、サンプル数を増やすことによって結果が変化するとも考えられる。

実験3. バイブレーションの統計
まず、「バイブレーションあり」と「バイブレーションなし」の場合の平均をプロットし(.png)、 平均が大きくなっていることを確認した。 つまり、起きた人数は「バイブあり」で多くなっていたことが分かる。 ここで考えられる仮説は、バイブレーションは起床に正の影響を与えるということである。 そのため、この仮説が正しいかどうかを検定した。

分析のため、「起床」した場合は3点、「一時的な覚醒」をした場合は2点、そして「起きれなかった」場合は1点を付けた。 その後、二つの比較対象における点数の平均に有意な差があるのかを「対応のあるt検定」によって分析した(上記の分布が正規分布であると仮定した)。 「対応のあるt検定」を行った結果、P(T≤t)片側が0.17で、有意水準の0.05を上回っている(.png)。
よって、この実験からバイブレーションの有無が5%の有意水準で起床に有意な影響を与えているとは言えない。 しかし、今回は実験回数が少ないため、実験の回数を増やしていけば、より正確な結果が得られる可能性がある。


5.結論

上記の実験と分析から、得られる結論は以下の通りである。

まず、「音量」の実験では、「アラームの音量が大きければ大きい程、起床率と覚醒率が上がる」という仮説を設定したが、 有意な結果を得ることは出来なかった。しかし、実験を繰り返し、標本数を増やす事で、より正確な結果が得られる可能性が指摘された。

次に、「音色」の実験では、二つの仮説を検証した。 一つ目は、「不快音である『アラーム』は、聞き慣れている『マリンバ』の音よりも起床を促しやすいはず」という仮説である。 実験では、「アラーム」と「マリンバ」の点数の平均の差が有意水準5%の範囲内で存在すると証明することが出来た。 しかし、「アラーム」の方が起床を促しやすい理由が、アラーム音が不快音であるからだ、と結論づけるには、実験の回数が足りない可能性がある。 他の可能性を排除するために、「マリンバ」だけではなく、他の聞き慣れている音色と「アラーム」の点数の平均を比べる追加の実験を行う必要があると思われる。 しかし、時間的制限により、追加実験は不可能だった。 二つ目は、「心地よい音である「せせらぎ」と、聞き慣れている「マリンバ」の音の間では、起床の促しやすさに有意な差はない」という仮説である。 実験では、有意な結果を得ることは出来なかった。「せせらぎ」で起きた被験者の数が低かった理由として、 音量の差が関係していた可能性があると指摘されたが、この可能性について有意な結果を得ることも出来なかった。

最後に、「バイブレーション」の実験では、「バイブレーションは起床に正の影響を与える」という仮説を設定したが、 有意な結果を得る事が出来なかった。しかし、実験を繰り返し、標本数を増やす事で、より正確な結果が得られる可能性が指摘された。

これらを総合的に考慮すると、(本実験が明らかに出来た限りで)もっとも起きやすいアラームの設定方法は、アラームの音色をiPhoneの「アラーム」という不快音にすることである。

6.参考文献(AIP style)

[1] T. Kurokawa and I. Ishimura, 東京成徳大学臨床心理学研究 13, 3 (2013).
[2] T. Aoki, J. of JSEE 61-3, 51 (2013).
[3] R. Yoshida, S. Nakano, and Y. Watanabe, 放送研究と調査 4, 2 (2006).
[4] Kouzuma, Waseda Weekly. (Accessed 28 Feb 2020).
[5] M.A. Carskadon and R.S. Herz, Sleep 27, 402 (2004).
[6] Y. 磯中, アラーム音の音色の違いが起床に与える影響, BA, 早稲田大学, 2012.
[7] J. Born, K. Hansen, L. Marshall, M. Mölle, and H.L. Fehm, Nature 397, 29 (1999).
[n.a.] USEN CORPORATION, Sound Design for OFFICE. (Accessed 28 Feb 2020).
[n.a.] T. Oohashi, Bulletin of the National Institute of Multimedia Education 7, 53 (1993).